タイ国ウボン ラチャタニー県における学校保健教育関係協力者会議後 (2003.12.13)アンケートの結果より
 
金沢大学 佐川哲也

 ワークショップ終了後に、参加校ごとに意見を整理してアンケートとして回答いただいた。ここでは、アンケート内容について要約する。なお、詳細はアン ケート資料を参照されたい。

1. アンケート内容
 アンケートは次の内容から構成した。
*実際に使用したアンケート用紙(タイ語日本語
(1)現在学校で抱えている問題
病気・感染症、学校の中でのけが、登下校時の事故やけが、食事・栄養、健康知識・教 育、発育・発達・肥満、健康づくり、生活習慣、飲料水(飲み水)、トイレの衛生、教室環境
(2)校内での伝染病:最近2−3年で学校の中ではやった病気
(3)重点課題:あなたの学校で重点的に取り組みたい課題(1〜3位)
子どもの病気の予防、疾病率の改善
子どもの傷害(けがなど)の防止
子どもの生活習慣の改善
登下校時の安全
食生活習慣の改善
健康教育や知識
学校環境衛生の改善(飲料水、トイレなど)
教室環境の改善(机、いす、黒板、照明など)
(4)方法:重点課題の協力や援助方法
(5)期待:重点課題への協力・援助による期待や効果
(6)過去の協力・援助経験:過去の外国からの学校保健領域に関わる協力・援助経験

2. アンケート結果
 各校の回答は後に示すアンケート表を参照されることとして、ここでは全体の概要と傾向について報告する。
(1)現在学校で抱えている問題
 病気・感染症について各校の回 答をみると、結膜炎、風邪、シラミ、 たむし、白なまず、皮膚病、水痘、デング熱などの発生が確認されている。これらに対しては、感染の拡大を予防するために、殺虫剤を散布したり、学校を休ま せたり、機会に応じて知識を指導したりするなどの方法を講じて対応している。
 学校中のけがは学校内での遊戯 中や作業中に発生し、多くは不注意に よるものと分析している。これに対処するために、折に触れ注意を喚起している。
 登下校時の事故やけがについて は、発生なしの学校と自転車の転倒に よって発生するとする学校とに分かれる。登下校に際しては、交通規則を守り、列をなして歩くなどの指導をすることによって、事故の減少に努めている。
 食事・栄養については、主に栄 養失調の問題が深刻であり、肥満を問 題とする学校は少ない。バランスの栄養を摂取することを指導するが、現実には貧困の問題があって改善することは困難であると分析している。そうした問題を 多く抱える学校では、給食の実施と学校牛乳の配布で栄養素の確保に努めている。その結果栄養失調は改善する方向にあると述べている。
 健康知識・教育については、問 題ありと回答する学校が多い。児童生 徒の健康に対する知識は薄弱で関心が低い。その原因として、教材不足があげられるが、複数の学校では教員の資質に問題があるとしている。教員に対する研修 を通じて、レベルアップが望まれるところであろうか。
 発育・発達・肥満については、 先の栄養問題と関連して体格体位の低 さが問題であるとしている。一部の学校では肥満児童が散見されるが、食事の偏りや過食が問題であると分析している。対策として、運動の奨励を上げる学校が あるが、大方は栄養と生活習慣の指導をあげている。
 健康づくりについては、児童生 徒の関心の低さを問題視している。対 策として、健康診断、体力づくりのほか、健康作りに向けた計画の作成が必要であるとしている。一定の成果が得られているという学校が多い。
 生活習慣については、健康生活 の実現のために生活習慣が重要である という認識が低いという意見がある一方、伝統的な習慣や霊に関わる習慣が現在でも影響しているという回答もある。ここでも食習慣に関わる関心が高い。まだ まだ、課題の多い分野であると考えられる。
 飲料水については、非衛生的で あると考えている学校が多いほか、飲 み水が十分確保されていないとする学校も多い。特に、容器の衛生につとめる必要があるとしている。対策としては、フィルターの設置や安全な水道の設置など が必要であるとしているが、村の協力が不可欠であるとしている。飲料水不足については、地下水の利用を検討している学校もある。ある学校では、水質汚染の 問題が深刻であり、大きな驚異になっていると報告している。こうした公害に関わる問題は行政を巻き込んだ緊急の対策が必要である。
 トイレの衛生については、数的 不足、不衛生、使用法が悪い、など多 くの問題が記述されている。正しい使い方の指導をすると共に、清掃と点検を徹底して改善を進めている。その成果は上がっているようだ。
 教室環境については、机・椅子 の不足、ゴミと埃、照度不足と多くの 問題があるようだ。各校それぞれに対策を講じ、一定の成果があったようだ。

(2)今後取り組みたい重点課題
 参加11校がそれぞれに重点課題として取り組みたい第1位から第3位までの課題は表1に示すとおりである。これによりと、「食生活習慣の改善」「学校環 境衛生の改善」「子どもの生活習慣の改善」を重点課題として取り組みたいとする学校が多い。しかし、各校は全く同様の順位を付けた学校はなく、学校の状況 に応じて優先課題は異なる結果となった。今後どのようにこれらの重点課題に取り組んでいくのか、また、重点課題への取り組みを支援していくのか検討するこ とが必要である。

(3)方法
 重点課題に取り組むためにどのような協力や援助が望ましいかという質問をした。その結果、各校一様の回答ではないが次のような考えが示された。
<国際協力に関わる支援方法>
・ 知識の供与
・ 科学的な測定器の供与
・ 予算的援助
・ 給食用備品および備品管理のための設備の物的支援
・ 保健および健康・衛生を促進・向上するための設備および教材の供与
・ 専門的な能力を持った人材の派遣

<学校で取り組む際の協力方法>
・ 学校委員会を設置しての全校的取り組み
・ 保護者を巻き込んだ地域との連携
・ 指導機会の拡大
・ 保健所への協力依頼の促進
・ 「健康づくり」計画の策定
・ 児童生徒への指導の徹底
・ 村や保護者あるいは警察との協力の促進

(4)効果
 重点課題の実施によって、次のような効果が予想されると回答している。1)学校保健教育に関わる質的レベルの向上が見込まれるほか、2)学校と関係団体 および地域との関係向上を通じて、3)学校の保健環境がいっそう整備される。

(5)過去の協力・援助経験
 過去の学校保健分野での国際協力・援助を受けた経験はなかった。ただし、1校で調査研究による学術的協力があったとの回答があったが、これら我々との関 係であり、他団体や組織からの支援はなかったと理解される。

3.今後の課題
 アンケートを通じて、参加各校が学校保健分野で様々な問題を抱えていることが分かった。これらの問題の解決に向けて日々取り組んではいるが、内容によっ ては改善がみられるものの、依然として未解決の問題も多い。こうした状況から前進をはかるために、国際教育協力に対する期待は高いと判断される。しかし、 我が国からの国際教育協力がどのような形で実施されればよいかについて、現時点では明快な回答はないといわざるを得ない。むしろ、だからこそ国際教育協力 の必要性と重要性があるのであり、学校保健分野での問題を抱える当該地域の関係者との関係を密にしながら取り組む必要がある。
 国際協力において考慮すべき課題は両国間の文化的な差異であり、我が国と対象国では生活習慣ばかりか、教育経験や思考方法・パターンも異なる。こうした 対象国への援助においては、互いに理解出来る客観的なデータの収集とそれに基づく分かりやすい解決策の提案が必要である。また、教育協力であるからには、 正しい知識と応用可能な技術を身につけた質の高い指導者の養成が重要であり、そのためのプログラム作りが必要である。また、プログラムの作成に当たって は、分かりやすさと応用しやすさに注意が払われなければならない。そのためには、我が国の経験に基づきながら、現地の実情を正確に把握すると共に、現地の 学校との連携を密にして取り組んでいく必要がある。その意味では「与える」という発想を捨て、「共に考え、支えていく」ことが必要ではないかと考えてい る。


表1 各校が重点的に取り組みたい課題