生活習慣の改善
金沢大学 佐川哲也
1.発表趣旨
生活習慣の改善を目標とした学校における取り組みとして、我が国において大きな成果をもたらしたHealth Quality
Control(以下、HQC)について紹介した。さらに、生活習慣を点検評価する上で重要である統計資料作成の重要性について紹介した。
HQCは、品質管理(QC)の手法を健康に適応した健康管理手法である。不健康状態にある学童を対象として、その原因を生活習慣との関係から探り、大き
く関与している問題についてチェックリストを作成し、毎日の生活において点検することで、問題は解消され学童の健康は改善される。この方法は、西嶋らに
よって実験的にその有効性が確認されている。その成果として、不健康症状と生活習慣との関係を分析するには、特性要因図を用いた方法が有効であること。個
人で取り組むよりも、グループを作って課題に取り組むことが有効であることを示唆している。
タイ国における健康問題を検討するとき、学童の健康に対する無関心をどのように改善していくかが最大の課題であるといえる。体調不良や疾病、傷害がどの
ようなメカニズムで起こっているかを突き止め、その問題を解消するためにどのように取り組んでいけばよいのかを学習することが、学童の健康を改善していく
上で重要である。教育分野での国際協力の最大のメリットは、少ないコストで持続的な効果をもたらすことであると考えられるが、健康の重要性を教師や学童が
自ら発見し、維持向上していく方法を身につけることは必要であり、大きな成果が期待出来る。その方法として、HQCは大変有効な方法であるといえる。
タイ国の経済の発展に伴って、地方における学童の生活様式も大きく変容している。こうした状況を的確に捉えることは教育経営において大変重要である。学
童の健康に注目するとき、彼らの生活習慣の変化へ不定愁訴の発生状況を明らかにすることは重要である。こうした問題に取り組むに当たっては、健康の維持増
進と深く関わっている傾向生活習慣項目を見定め、定期的にデータを蓄積することは重要である。筆者らは1983年より、タイ国東北部において、学童の健康
生活を評価することを目的として、各種の調査を実施してきた。特に、健康生活習慣については、質問紙を活用して調査を行い学童の健康生活統計の作成を続け
てきた。1983年に開始されたこの調査は、当初日本の学童との比較という点で大きな意義を持っていたが、ほぼ5年ごとに実施され蓄積された資料は、タイ
国学童の健康生活習慣の変化を比較評価することのできる大きな成果となっている。おそらく、こうした資料はタイ国内において、唯一の貴重な資料であると思
われる。
しかし、こうした統計資料は学童の傾向の維持向上に活用されてこそ意味がある。そのためには、指定校において資料が収集されればよいのではなく、すべて
の学校、すべての学童を対象として実施されなければ意味がないのは明らかである。そのためには、各校が健康生活習慣の調査を実施すること、児童の健康状態
を評価することの意義をよく理解し、積極的に取り組むことが重要である。
学童の健康を健康生活を維持向上するために、HQC手法を取り入れた傾向生活維持向上のための知識と技術の習得が必要であろう。また、健康生活に常に関
心を持ち、評価していくためにも健康生活習慣に関わる調査の実施は重要である。
2.各校の反応
HQC手法を取り入れた学童の健康生活習慣の改善に対する参加校の反応は良好であった。学童の健康が学校カリキュラムに基づく教育によって向上されるの
ではなく、毎日の健康生活習慣によって改善されるという考え方は新しい教育方法であるとの反応を得た。ワークショップ終了時に各校から提出されたアンケー
トによると、学校保健に関わる8課題(アンケート結果の項を参照)のうち、最重点すなわち第1位に取り組みたいと回答した学校が11校中3校、第2位の課
題として取り組みたい学校が1校、第3位が2校であった。このことは、ワークショップに参加した各校において、普段から学童の健康生活の改善に関心を持っ
ておいることの表れであると理解される。また、HQCという新しい独創的な手法への関心と学童を中心に据えた取り組みに関心を持ってのことではないかと想
像される。
いずれにしても、国際教育協力の一方法として、分かりやすく実施しやすい方法の開発に向けて、各校の要望に応える取り組みの必要性を痛感した。